大阪地方裁判所 昭和52年(行ウ)72号 判決 1980年9月24日
原告
神坂玲子
神坂哲
被告
箕面市教育委員会
代表者教育委員長
佐々木茂八
訴訟代理人
葛原忠知
外二名
主文
一 原告らが、被告に対し、別紙目録(一)記載の各会議録の閲覧及び謄写の許可を求める訴及び同許可義務の存在確認の訴を却下する。
二 被告が、昭和五二年五月二六日、原告らに対してした別紙目録(一)記載の各会議録の閲覧及び謄写を許可しない旨の決定を取り消す。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告ら
(主位的請求の趣旨)
主文第二項と同旨
被告は原告らに対し、原告らが別紙目録(一)記載の各会議録を閲覧及び謄写することを許さなければならない。
訴訟費用は被告の負担とする。
(予備的請求の趣旨、但し主位的請求の趣旨第二項に関する)
被告は原告らに対し、原告らが別紙目録(一)記載の各会議録を閲覧及び謄写することを許可する義務があることを確認する。
との判決。
二 被告
(本案前の答弁)
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
(本案に対する答弁)
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決。
第二 当事者の主張
一 原告らの請求原因
1 原告らはいずれも箕面市の住民である。
2 被告は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下地教行法という)一三条の規定による会議(以下会議という)を毎月一回招集し(以下この会議を定例会という)、必要があるときは臨時に招集する(以下この会議を臨時会という)ものとしている。そして、暦年毎に定例会及び臨時会のそれぞれ招集順に番号を付し、昭和何年第何回定例会又は昭和何年第何回臨時会と称することとしている。
3 被告は、昭和五〇年一月から昭和五二年三月までの間に、昭和五〇年中には定例会を一二回、臨時会を四回、昭和五一年中には定例会を一二回、臨時会を四回、昭和五二年には三月までに定例会を三回、臨時会を二回、各開催した。右各会議の議事については、別紙目録(二)記載の公開しない会議に付議された事件にかかる部分を除き、いずれについても公開しない旨の議決はなかつた。
4 原告らは、昭和五二年四月二五日付文書をもつて、被告に対し、(1)一般住民として会議の議事内容を知る一般的必要、(2)別件訴訟の資料として会議の議事内容を使用する必要があることを理由に、別紙目録(一)記載の各会議録の閲覧及び謄写の許可を求める旨の申請をしたが、被告は、同年五月二六日に開催された昭和五二年第三回臨時会で、原告らの本件申請を許可しない旨の決定を議決した(以下本件処分という)。本件処分は、同日原告らに通知された。
5 本件処分は、別紙目録(一)記載の各会議録(以下本件会議録という)に関する限り、違法であるから取り消されるべきである。すなわち、
(実体上の理由)
(一) 教育委員会制度が教育行政に対する民衆統制を原理としていることにかんがみ、会議の公開は法的要請であつて、委員会の裁量に委ねられたものではない。この会議公開の原則は、その議事が公正に行われることを担保するために、住民に審議の経過状況を知らせることにあり、右審議の状況を知らせる方法として、会議録を作成してこれを住民に閲覧させることを当然に予定している。
被告は、箕面市教育委員会会議規則(以下会議規則という)二条三項で会議公開の原則を定め、その具体化として、会議録の作成を義務づけている(会議規則四条、五条)。
このように、会議規則が、会議録の作成を義務づけた目的は、日時の経過によつて議事の経過及び内容が不明になるのを防止し、資料として後日まで保存することのほかに、審議の経過及び結果を記録し議決内容の公正さを担保するため、それを住民に知らせる重要な手段にしようとしたことにある。そうすると、会議公開の原則には、会議録の閲覧請求権が、法律上当然含まれるものであり、住民には、明文の規定の有無にかかわらず会議録の閲覧請求権があり、被告は、特段の事情のない限り住民の閲覧請求を拒み得ないのである。
(二) 原告らの閲覧請求は、知る権利に基づくことを第一の理由としているが、教育委員会の行政情報を知る権利は、教育行政の住民に対する直接責任性に基づき特別に尊重されなければならないものとして、憲法、地方自治法、教育基本法、地教行法、会議規則等で保障された住民の基本権であり、公の秘密を理由にその制限をするには、合理的な理由が必要である。
(三) 箕面市の住民には、保存文書の閲覧許可申請の手続上の権利があることは、被告の箕面市教育委員会事務局規程(以下事務局規程という)二条が準用する箕面市文書取扱規程(以下市文書規程という)三二条に規定するところであり、仮に本件処分が、いわゆる裁量処分であるとしても、被告は、この裁量権の範囲を越え又はこれを濫用したものである。
(四) また、原告らが許可を求めている謄写は、文書をメモしながら閲覧するという閲覧の一態様にすぎないから、本件会議録の閲覧を許可する以上、特段の事情のない限り、被告には、これを拒否する理由がない。
(手続上の理由)
会議公開の原則は、住民に議事日程を予告して会議を傍聴させることを当然に予定しており、被告は、会議規則及び箕面市教育委員会傍聴規則(以下傍聴規則という)で、議事の予告制度(予告期間と開催告示・会議規則三条)及び傍聴の手続と方法(会議規則六条、傍聴規則)を定めている。
ところが、本件処分の決定をした臨時会の議事の予告及び開催告示がなく、かつ会議を事実上公開しなかつた。したがつて、本件処分には手続上の瑕疵がある。
6 本件処分が取り消されると、被告がなすべき行為の内容は一義的に明白であり、被告は、原告らに対し本件会議録の閲覧謄写を許可しなければならない。したがつて、行政庁の第一次的判断をまつまでもなく裁判所は、直ちに行政庁に特定の作為義務がある旨を判断し得るのであるから、本件閲覧謄写を被告が許可すべき旨の裁判をしても、行政庁の裁量権を侵害するおそれがない。
そこで、原告らは、被告に対し、本件会議録の閲覧謄写を許可するよう求め、仮にそれが認められない場合には、許可すべき義務のあることの確認を求めることができる立場にある。
7 結論
原告らは被告に対し本件会議録に関する本件処分の取消し及び本件会議録の閲覧謄写の許可を求め、右給付判決が求められない場合は予備的に、被告は本件会議録の閲覧謄写を許可すべき義務があることの確認を求める。
二 被告の答弁と主張
1 本案前の主張
本件訴は、次の理由によつて不適法であるから、却下を免れない。
(一) 原告らには、本件会議録の閲覧請求権がない。したがつて、本件処分は、原告らの請求権を侵害することはあり得ない。そうすると、原告らの本件処分の取消しを求める訴は、不適法である。
(二) 原告らは、本件会議録の閲覧謄写を許可するよう訴求しているが、裁判所には、被告に代つて、そのような行政処分をする権限がない。したがつて、被告らのこの訴は、不適法である。
(三) 原告らは、予備的に被告に右許可義務のあることの確認を訴求している。しかし、行政機関の許可処分は、諸般の事情を考慮してなされなければならないから、予めそのような事情を把握できない裁判所に許可すべきかどうかの判断を求めることは、不可能を強いるものであり、三権分立の原則に反する。裁判所に対しては、行政機関が第一次的にした処分の無効又は取消しを求めるべきであり、また、それで十分の救済が得られる。したがつて、この訴は、不適法である。
2 認否
(一) 請求原因1ないし4の各事実は認める。
(二) 同5、6の各主張は争う。ただし、原告ら主張の規則が定められていること及び本件処分の決定をした臨時会の議事の予告及び開催告示がなかつたこと、以上のことは認める。
3 被告の主張
本件処分は、次の理由で適法である。
(一) 会議規則が会議録の作成を義務づけた趣旨は、議事の経過及び結果を後日に保存するためにある。したがつて、会議の公開が前提となつているものではない。
旧教育委員会法は、教育委員を公選制にし、会議公開の原則を採り(三七条)、会議録の作成を義務づけていた(三九条の二)。ところが、同法を改正した地教行法(昭和三一年制定)は、教育委員を任命制にし、会議の公開を命じる規定をおかず、教育委員会の運営方法は、その自主的判断に委ねられた。
被告の会議規則は、会議録の作成を義務づけてはいるが、その取扱いについて何も定めていない。したがつて、いわゆる規則の欠缺と言わなければならず、規則制定権者である被告が、その取扱いを自主的判断に基づいて決めることができる筋合である。そこで、被告は、一般の内部文書の取扱いの例にならい、事務局規程二条、市文書規程三二条により処理すれば足りるのである。つまり、被告は、当該申請の対象、理由等を自主的に判断し、その自由裁量によつて許否をきめることができる。したがつて、原告らには、本件会議録の閲覧請求権が法律上保障されていない。
(二) 教育委員会は、地方公共団体に設置される教育行政機関であり、合議制の執行機関であつて、いわゆる行政委員会である。したがつて、その会議の公開や会議録の公開について、立法機関である地方議会のそれと同一には論じられない。また、会議の公開即、会議録の公開を意味しないし、会議の公開が法令によつて定められているからといつて、会議録の公開の趣旨が、当然これに含まれているわけのものではない。
被告の会議規則二条三項は、会議を公開する旨定めているが、同規定は、地教行法の要請ではなく、被告が自主的に定めたものである。なお、各地方自治体の教育委員会の中には、会議規則で会議の公開を定めていないものもある(例えば大阪市教育委員会)。被告は、会議を非公開にした方が、より適切であると判断する状況が現われた場合、会議規則二条三項を削除することが許されることは勿論である。会議の公開を定めた規定自体が、この程度のものであるから、右規定から、住民の権利として、会議録の閲覧謄写の請求権が法律上保障されているとすることは、無理である。
(三) 被告が、本件処分をした理由は、原告らの申請する会議録が広範であり、申請の目的が漠然とし過ぎていたことによる。したがつて、本件処分の右理由は、正当として是認されるべきである。
(四) 被告の会議録には、会議規則五条所定の事項のみならず、議決までの討議の過程並びに各委員の意見、各委員の賛否等までが、詳細に記載されている。
被告の会議は、従前、傍聴人がなかつたところから、議事の途中で非公開(秘密会)とすべき事案に関係してくる場合でも、非公開とする手続をとらないまま議事を続行し、それがそのまま会議録に記載されたものがある。また、原告らの提起した別件訴訟は、政治的な問題を含んでおり、政治的中立性が要求される被告が、これに関連する議事につき、その討議の経緯や各委員の個人の意見まで外部に公表することは、被告を政治的な争いに巻き込む虞れがある。したがつて、本件会議録を公開することには弊害を伴うから、原告らの閲覧謄写に適さない。
(五) 被告の委員長は、昭和五二年五月二六日、第三回臨時会を招集するに際して、会議規則三条但書の急施を要する場合に該当すると判断して、告示手続を省略した。すなわち、
被告は、同月一七日に続いて、同月二六日にも協議会を開催して、原告の閲覧申請の取扱いを検討したうえ、不許可の結論を出した。そこで、本件申請が出されてから既に一か月も経過しており、その間原告から性急な催促があつたので、被告は、可及的速やかに応答するのが妥当であると考え、所定の手続に従つて定例会又は臨時会を開催するなどして更に期間を徒過するよりも、即時審議のうえ結論を出すべきであるとの見地から、即時その場で臨時会を開催した。ちなみに、会議規則三条但書の急施を要する場合とは、単に会議に付議すべき性質内容から緊急性が認められる場合に限られるものではなく、会議の招集権者である委員長が、客観的情勢その他諸般の事情を考慮し、その裁量判断により決定することができるのである。そのうえ、被告は、原告らが第三回臨時会の傍聴を申し出た場合、同会議を非公開とする手続をとることが明らかであつたから、告示手続を省略することによつて原告らが傍聴の機会を奪われたことにはならない。したがつて、本件処分には原告らが主張するような手続的瑕疵がない。
三 被告の主張に対する原告らの反論
1 被告の主張(一)、(二)について
教育委員の選任方法が公選制から任命制に変つても、教育基本法一〇条に定める教育行政の根本方針に変革が加えられたものではない。また、公開の原則は、国民の監視と民主的コントロールが要請される立法、司法、行政の各部面で必要ないし有用なものとして採用されている国民主権と人権の制度的保障であつて、直接公選制の会議体に固有の制度ではない。そして、会議公開に関する会議規則の規定は、教育基本法一〇条の趣旨に沿うよう解釈されるべきである。また、市文書規程三一条一項は、一般に文書は閲(借)覧簿に記入して閲借覧することができると定めており、したがつて、同規程三二条が、市長の許可を受けるという手続を規定している趣旨は、一般住民その他第三者が閲覧する場合には、文書の管理者たる市長に無断ではすることができないという当然のことを定めたに過ぎない。そうすると、市長は、住民の閲覧申請が特に合理的必要性を欠くと認められない限り、これを許すべく覊束されていることになる。
2 被告主張(三)について
原告らが閲覧の許可を求めた会議録は、比較的多数ではあるが、一定期間内に開かれた各会議に関するものに限定されており、また、住民が会議録閲覧請求権を行使するには、抽象的主観的に住民が必要であるということだけで足りる。
3 被告の主張(四)について
討議の過程、各委員の意見及び賛否の詳細な記載は、会議規則五条三号ないし六号のいずれかに該当する事項であり、正規な記載として会議の承認を経たものである(四条二項)。仮に本件申請の会議録の一部分に秘密とすべきものがあるとしても、これを理由に全部の会議録の閲覧等を拒否するのは違法である。いずれにしても、被告が本件会議録の公開による弊害として主張する事由は、会議規則五条所定の事項以外の記載をしたこと及び非公開にする手続を怠つたことによるというのであるから、その弊害の責はすべて被告にあり、これを理由に住民に閲覧拒否の不利益を負わせることは許されない。また、教育委員会に政治的中立性が要求されるとすれば、各委員はその個人的な立場にかかわらず、委員としての会議における言動は、その中立性を侵さないようにすべきであり、かえつて、委員としての言動が公表され、一般の批判に耐えることによつて、はじめて教育委員の中立性は確保される。
4 被告の主張(五)について
いわゆる急施事件には、臨時の急施事件と告示後の急施事件とがある。本件は、前者の場合に当たるが、この場合には、告示期間の短縮は許されるが、告示の省略は許されない。そうでなければ住民の傍聴権を全く奪うという結果になる。
第三 証拠関係<省略>
理由
一本案前の主張に対する判断
1 被告の本案前の主張(一)について
原告らに本件会議録の閲覧謄写の請求権があるかどうかは、本案に入つて判断すべき事柄であるから、同請求権がないことを前提にして訴の却下を求めることは、失当である。
2 同(二)について
原告らは、本件会議録の閲覧謄写を許可するよう訴求しているが、当裁判所には、被告行政庁に代つてそのような許可処分をする権能がないことは、多言を必要としない。したがつて、原告らのこの許可処分を求める訴は、不適法であり、却下を免れない。
3 同(三)について
原告らは、被告に本件会議録の閲覧謄写を許可すべき義務のあることの確認を訴求している。ところで、原告らは、被告に対し、本件会議録に関する本件処分の取消しを訴求しているのであるから、原告らが勝訴をすれば、行訴法三三条二項によつて、被告は、本判決の趣旨に従い、改めて原告らの申請に対し処分をしなければならない。そうすると、原告らは、これにより目的を達することができるのであるから、このほかに、予め右許可をすべき義務のあることの確認を求める利益はない。したがつて、原告らのこの許可義務のあることの確認を求める訴は、不適法であり、却下を免れない。
二本案(本件処分の適法性)についての判断
1 請求原因1ないし4の各事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、本件の争点である会議録閲覧謄写請求権の有無について判断する。
(一) 被告は、昭和三一年九月、地教行法一五条に基づいて、会議規則を定めているが、その会議規則が、別紙のとおりであることは、当裁判所に職務上顕著な事実である。
(二) 会議規則二条三項は、被告の会議を原則的に公開することにしている。旧教育委員会法三七条は、会議公開の原則をうたつていたが、同法を改正した地教行法(昭和三一年制定)は、この原則をうたわず、各教育委員会の規則にまかせた(一五条)。したがつて、大阪市教育委員会では、会議公開の原則を採用していない(成立に争いがない乙第二号証によつて認める)。
しかし、他の教育委員会がどうであれ、被告は、会議規則で、会議公開の原則を採用したのであるから、この原則が尊重されるべきことは、いうまでもない。
会議公開の原則を担保するものに、会議規則六条の傍聴を許可する規定、傍聴規則と、会議規則五条、六条の会議録作成に関する規定とがある。
これらの規定からすると、被告が、会議を公開して傍聴を許可し、その都度会議録を作成する第一の目的は、会議の審議が公正に行われることを担保するために、住民に審議の状況を知る機会を与えることにあるとしなければならない。勿論会議録を作成する第二の目的として、会議での議事の経過及び結果を後日に保存することがあり、これも、前の第一の目的と同様に重要なことである。
ところで、被告の会議には、定例会と臨時会とがあり(会議規則一条)、会議の三日前までに議事日程が告示される(三条)。したがつて、会議の議案に利害のある住民や関心のある住民は、委員長の許可を得て告示された会議を傍聴すれば、その会議の模様を承知できるが、その会議の日に差し支えがあつて傍聴できなかつた住民あるいは傍聴人の数が制限されて会議場に入場できなかつた住民などは、後日、会議録を閲覧することによつて、会議の模様を承知できるのである。そうすると、会議公開の原則の前述した目的を満たすためには、会議の日に傍聴を許すだけでは足りず、傍聴できなかつた住民のためにも会議録の閲覧を許すことが必要になる。このようにして会議の模様を知つた住民は、地方自治法上の権利(教育委員の解職請求((一三条三項))、監査請求((二四二条)、住民訴訟((二四二条の二))など)を行使するきつ掛けをつかむことができるのである(げんに、原告は別訴で住民訴訟を提起している)。この住民の直接民主主義の制度は、会議公開の原則とともに、教育委員会の恣意や独断を排除するのに役立つ。
このようにみてくると、被告の会議公開の原則の規定は、会議録の閲覧請求を含むものと解するのが相当である。
(三) 被告の反論について判断する。
(1) 会議規則には、会議録の作成を義務づける規定はあるが、その会議録の取扱いについての規定がないことは、確かである。そこで、被告は、住民にこれを閲覧させるかどうかは、被告の自由裁量によると主張している。しかし、当裁判所は、前述したとおり、住民には、公開の原則に伴う当然の権利として閲覧請求権があると解するから、被告のこの主張を採用するわけにはいかない。そして、住民からこの請求権の行使があれば、被告は、特別の事情のない限り、これに応じなければならないのであつて、被告の自由裁量が入る余地はない。
(2) 被告は、立法機関である地方議会の公開とは異ると主張しているが、前述した地方自治での直接民主主義制度を担保するには、その前提として会議公開の原則が必要であり、このことは、地方議会と教育委員会の会議とで異なる点がない。
(3) 教育委員会の会議の公開は、被告の会議規則で定めてはいるが、大阪市教育委員会の会議規則にはこの定めがない。しかも、被告の会議規則を改正して何時でも会議公開の規定を廃止することができる。したがつて、会議公開の規定は、この程度のものにすぎず、この規定から、会議録の閲覧請求権を含むとすることは無理であると主張している。
しかし、当裁判所は、会議公開の規定は、地方自治法上重要な規定であると考えるから、この規定を廃止すること自体が、違法ではないかという疑問をもつ。そのことはさておき、被告の会議規則には、公開の原則をうたつた明文があるのであるから、当裁判所は、それを尊重し、その規定を前提に、会議録の閲覧請求権の有無を決めれば足りる。
(4) 被告は、本件会議録の閲覧を許すと、弊害が伴うと主張しているが、本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、そのような弊害があることが認められる証拠はない。
被告は、非公開(秘密会)にした方が相応しい議案の審議まで会議録に記載されているから、原告らに閲覧させるとき、これらが知られてしまうことを懸念している。
まずいえることは、被告は、秘密会にして手続を進めなかつた落度を原告らに転嫁できないということであり、原告らは、別件訴訟のため被告の会議で何が審議されたかを知りたいと要求しているのであるから、この要求に関係のない記載部分は閲覧から除外することも、閲覧の方法として可能である。しかし、このことから、逆に原告らには閲覧請求権がないというのは、本末転倒といわなければならない。
(5) なお、ここで一言付加しておく。
最判昭和三九年一〇月一三日民集一八巻八号一六一九頁は、岡山県人事委員会に対して不利益処分の審査を請求した者には、同委員会の議事録の閲覧請求権がないとしている。しかし、この事案を、本件と対比したとき、(ア) この事案は、密行性を本質的に必要とする人事委員会であるのに対し、本件の教育委員会は、教育行政一般であつて教職員の人事に限られないこと、(イ) この事案は、不利益処分の審査を請求している本人であり、人事委員会の審査決定に対し出訴しうる点で、閲覧請求を拒否されても審査請求人の権利保護に欠けるところがないのに対し、本件では、原告らは、被告と直接関係のない住民であり、閲覧請求が拒否されると、前述した地方自治法上の権利行使が困難になること、以上の点で両者は、事案が異るといえる。したがつて、当裁判所が、原告らに本件会議録の閲覧請求権を認めることは、前記判例に抵触しないのである。
(四) このように、会議録の閲覧請求権が肯認される場合、当裁判所は、その謄写請求権があると解するものであるが、その理由は、次のとおりである。
(1) 会議録の謄本や抄本の請求ができるのであれば、その請求をすれば足りるわけであるが、被告の会議規則には、会議録の謄本又は抄本を請求できるとする規定がない。
(2) 会議録の閲覧はできるが謄写は許されないとする合理的理由が見当らない。
(3) 謄写を許すと、会議録が筆記具によつて汚されたり、書き込まれたりする虞れがある。しかし、今では、すぐれた複写用機械が広く利用されているのであるから、それを利用することによつて、この虞れは氷解する。
(4) 閲覧を許して謄写をさせないと、不正確な記憶に基づく情報が流布される虞れがあり、却つて得策ではない。それを防止するため、要点をメモさせることは、既に謄写を許したことになる。
(5) このようにみてくると、閲覧請求権には、謄写請求権が含まれるとした方が合理的である。
(五) まとめ
原告らには、被告に対し、本件会議録の閲覧謄写を請求する権利が、法律上与えられているとしなければならない。
3 本件処分の適法性について判断する。
(一) 原告らが、本件会議録の閲覧謄写の許可申請をしたところ、被告がこれを不許可にしたことは当事者間に争いがない。
(二) 被告は、本件処分の理由として、原告らの申請する会議録が広範であり、申請の目的が漠然とし過ぎていたことによると主張している。
しかし、会議録の閲覧請求権が会議の公開の原則から導かれるものである以上、閲覧請求が濫用にわたる場合を除いては、その目的の如何によつて閲覧の許否が左右されるべき性質のものではないし、原告らの申請は、一定期間中の会議の全会議録を対象としているもので特定に欠けるところはなく、その期間も二年余りにすぎない。
また、原告らの申請は、非公開の事件を除外しないで右期間の全会議録について閲覧謄写の許可申請をしているが、被告としては非公開部分を除外した条件付許可をすれば足りるから、被告のいう理由には、正当性がないとしなければならない。
(三) 次に、被告は、非公開の手続を経ずに会議で取り扱われた事項の中にも公開に適さない部分があり、その会議録の公開は弊害を生じる旨主張しているが、被告には、会議を非公開にする手続があるのにこれをしないでおいて、会議録の公開が不適当であると今になつて主張するのは本末顛倒であることは、前述したとおりであり、この理由も、原告らの申請を不許可にすべき正当な理由にはならない。
(四) まとめ
原告らは、本件会議録の閲覧謄写請求権に基づき、被告に対し、その権利を行使したのに対し、被告は、そのような請求権がないことを前提に本件処分をしたもので、本件処分は、この点で違法であり、本件処分は、取り消されるべきである。
三結論
原告らの本件請求中、本件会議録の閲覧謄写を許可するよう請求している訴、被告に同許可をしなければならない義務のあることの確認を予備的に請求している訴を、いずれも不適法として却下し、本件会議録に関する本件処分を取り消し、行訴法七条、民訴法八九条、九二条に従い、主文のとおり判決する。
(古崎慶長 孕石孟則 小佐田潔)
別紙目録
(一) 箕面市教育委員会の左記各会議録(後記(二)の公開しない会議に付議された事件に関する部分を除く)
(1) 昭和五〇年第一回乃至第一二回の各定例会
(2) 同 年第一回乃至第 四回の各臨時会
(3) 昭和五一年第一回乃至第一二回の各定例会
(4) 同 年第一回乃至第 四回の各臨時会
(5) 昭和五二年第一回乃至第 三回の各定例会
(6) 同 年第一回乃至第 二回の各臨時会
(二) 公開しない会議に付議された事件
(1) 昭和五〇年第一回定例会の議事のうち「職員人事発令の件」
(2) 同年第一回臨時会の議事のうち「教職員組合に対する処分の件」
(3) 同年第二回臨時会の議事のうち「昭和五〇年度小・中学校教職員人事の件」
(4) 同臨時会の議事のうち「箕面市立学校教員の行政処分内申に関する件」
(5) 同年第三回臨時会の議事のうち「事務局職員人事の件」
(6) 昭和五一年第一回臨時会の議事のうち「当面する諸問題」
(7) 同年第二回臨時会の議事のうち「箕面市立とどろみ幼稚園長人事の件」
(8) 同年第三回臨時会の議事のうち「人事の件」
(9) 同年第四回臨時会の議事のうち「五・二二同盟休校の件」
(10) 昭和五二年第三回定例会の議事のうち「教職員人事の件」
(11) 同年第一回臨時会の議事のうち「教職員人事の件」
(12) 同年第二回臨時会の議事のうち「箕面市教育委員会事務局職員人事の件」
箕面市教育委員会会議規則
(昭和三十一年九月三十日教委規則第一号)
(目的)
第一条 この規則は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和三十一年法律第百六十二号)第一五条の規定に基き、箕面市教育委員会(以下「委員会」という。)の会議その他議事の運営に関し必要な事項を定めることを目的とする。
(会議)
第二条 会議は毎月一回招集する。ただし、委員長が必要があると認めるときは、臨時に招集することができる。
2 二人以上の委員から会議に付議すべき事件を示して、会議の招集の請求のあるときは、委員長は臨時に会議を招集しなければならない。
3 委員会の会議は公開する。ただし、委員の発議により議決した時は、この限りでない。
(招集)
第三条 委員長は、会議の三日前までに議事日程を告示するとともに、委員に通知しなければならない。ただし、告示後、或は臨時に急施を要する事件が生じた時はこの限りでない。
(会議録)
第四条 会議の次第は、会議録に記載しなければならない。
2 会議録は委員長及びその都度委員長の指定する委員一人が署名し、次回の会議において承認を受けなければならない。
3 会議録に記載した事項に関して、異議があるときは、委員長が会議にはかつて決定する。
(会議録の記載事項)
第五条 会議録には左に掲げる事項を記載する。
一 開会及び閉会の年月日時及び場所
二 会議に出席した者の職及び氏名
三 議案及び議事の大要
四 議決事項
五 その他委員長が必要と認めた事項
六 教育長報告の大要
(傍聴)
第六条 公開の場合は、委員長の許可を得て傍聴することができる。
2 傍聴に関する必要な事項は別に定める。
(雑則)
第七条 委員は招集に応ずることができないときは、その事由を具して予め委員長に届け出でなければならない。
第八条 この規則に定めるもののほか、会議の運営について必要な事項は委員長が会議にはかつて定める。